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今回のお手本は英国、米国であり、英国シティーで1980年代半ばに起こった「ビッグバン」、従業員よりも投資家・株主の方を向いた企業経営、国際会計基準の導入などが教科書とされた。
つまり、1980年代の英国、米国、どちらも厳しい社会の閉塞感と停滞の中から「自己改革」を施し、再生したではないか、日本も今こそ、その産みの苦しみを経なければならないという訳である。
結局、新たな価値観や理念を自ら創出することが不得手な日本の場合には、そうした価値観を海外から輸入した方が手っ取り早く、その結果、いつまでたっても所詮「キャッチアップ」の思考から抜け出せないことになる。 「我々は遅れているのであるから、革命的変革を施して、追いつこうではないか」ということである。
なかなか沸騰してこない人々の不満のマグマに火を付ける作業である。 例えば、日本経済は依然として世界第二位に位置し、「失われた10年」の間にもそれ相応の経済成長を果たし、総体としては力を持ち続けているという事実には触れずに、殊更に日本経済・社会の問題点を実り出すことなどは良い例であろう。
また、人々の不満や怒りを焚き付けるために、「政対官」「官対民」あるいは「市場対国家」という形で、至るところで対立構造を作り上げ、必死に摩擦を起こし、大きな火に燃え上がるのをひたすら待つという運動も見受けられる。 本来、「革命的」変化というのは自然発生的に起こるべきものだが、強いて起こそうとすれば、「問題点を誇張する」あるいは「自己を倭小化する」という傾向に陥りやすく、また、社会内の対立を殊更に煽る必要が生じるのも額ける。
革命的変革を導く理念、価値観が明確でなく、下からの盛り上がるような気運も出てこない状況で、「革命的転換」「抜本的改革」といった言葉だけが1人歩きを始める。 1人歩きを始めた熱気を帯びた言葉と冷めた現実の間の溝を埋めあわせるために、上からの革命的改革が動き出す。
それは、大規模な構造改革計画であるとか、再生プログラムといった形で提示されるのであるが、革命的変革が上から主導されなければならないことの矛盾にこそ日本の問題がある。 本来、抜本的、革命的変革とは全く無縁と思われる人々までが革命的変革を謡うという現象に陥り、何が本物で何が偽物かの区別が全くつかなくなる。
最後に、最も深刻なのは、「革命的」変革、改革を叫びながら、それを成就するためのエネルギーが溜まるのを待つ必要があるために、結果として改革、変革を遅らせてしまっているという点である。 「失われた10年」は同時に「改革、変革の10年」でもあったと述べたが、「革命的」思考に陥ってしまうと、こうした「改革、変革の10年」に対して、これでは全く不十分だという発想ばかりが先走って、小さな変化や日々の変化の重要性や意義を正しく評価することができないばかりか、その変化、改革を大切に育てていくという姿勢に欠けることになりやすい。
時には、改革、変革の萌芽を刈り込むことすらある。 1990年代半ばの財政構造改革あるいは財政再建の議論などは、正に革命的発想の問題点が最もはっきりと現れた例ではあるまいか。
財政構造改革の議論が大きな勢いを持ったのは、1996年から1997年にかけてであった。 マスコミでも有識者の間でも、日本経済・社会の構造改革の一環として財政構造改革が不可欠との認識が広がった。
当時の新聞の論調を今振り返ってみると、一時期、正に財政構造改革一色という感じであったし、各政党もこぞって財政構造改革を公約とした。 こうした財政構造改革論議の盛り上がりは、最終的に財政構造改革法の成立という成果を生んだ。
色々意見はあるであろうが、主要経費毎のキャップ(上限)、財政赤字や赤字公債の縮減目標などが、単なる政府部内の了解に止まらず、法律として成立したというのは、やはり当時の政治の勇気ある大英断であった。 ところが、この法律が成立するかしないかという頃から、財政構造改革法は不備が多すぎるという議論が勢いを増し、折からの経済失速と重なって、財政再建論議は急激に熱が冷めていく。
1997年末の金融不安やアジア経済危機などを受けて、財政構造改革はすっかり棚上げされてしまった。 もちろん、財政構造改革に踏み出す時期を間違ったという意見もあるが、財政構造改革法が経済減速にどのような影響を与えたかは、実際のところ必ずしも明らかではない。
最近再び財政構造改革の必要性が叫ばれているが、1997年当時と比較しても、日本経済も世界経済も決して安定している訳ではない。 結局、残ったのは、より一層の財政悪化だけであったとも言える。
もちろん、ことここに至れば、今の日本にとって「革命」的転換が必要であることは、言うまでもないのであり、これを否定するつもりなど毛頭ない。 「革命」的転換は待ったなしの状況であろう。
一方で我々は、ここまで追いつめられてしまった理由はどこにあるのかという点についてよく考える必要がある。 それは先ほども述べたように、今回「革命」的変革に成功した後、再び、50年後、100年後に多大なエネルギーを費やして「革命」的変革をしなければならないような停滞を招かないためには、どうしたらよいかということへの解答探しでもある。
そこで、今回、英国に来て最も印象深かった点は、革命的思考とは180度反対に位置する英国の思考方法であった。 日本語で言えば、「一発逆転満塁ホームラン」的な、この「革命」的発想ほど、英国流、あるいはアングロサクソン流の思考方法と相容れないものもない。
英国の思考方法は、むしろ、「保守」、それも「進化する保守」の思考の中に見出せる。 以下では、その「進化する保守」の思考方法が、我々が陥りがちな「革命」的思考とどれほど違うのか、また、「進化する保守」思考を英国で成立せしめている歴史的、制度的背景は何か、日本で同じような「進化する保守」の思考方法を成長させるには何が欠けているのかについて、考えてみたい。
そこで、日英の思考方法の違いを少し具体的に捉えるために、日本版金融ビッグバンのモデルとなった1986年の英国における本家ビッグバンについて考えてみたい。 果たして英国のビッグバンは日本の金融制度改革と同様に大きな改革だったと言えるであろうか。
答えは、もちろんイエスであり、その規模と影響においては日本を凌ぐものであった。 ある一面では答えはノーとも言える。
日本の金融制度改革は、外為法の改正に始まり、銀行分野における長短分離規制廃止、銀証分離規制廃止、証券取引における最低手数料制廃止、銀行持ち株会社解禁といった、個別に行っても革命的な改革を大規模な法律改正によって一気にいっぺんに行ったという点で、正に画期的な出来事であった。 その点、英国のビッグバンは、その名称はともかくとして、日本のように事前に入念かつ、意図的に計画された、また一気阿成に行われる革命的な改革を意識的に狙ったものとは言えない。
英国ビッグバンは、1986年から遡ること3年、1983年に当時の証券取引所理事長と貿易商業大臣との間で取り交わされた有名な合意に始まる。
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